序章:Durabilityの科学 — 後半の失速を防ぐ「第4の次元」

<aside> 📺 本シリーズは ジョンの山田ラジオ(Don't Study Just Run) のDurabilityシリーズを参考にしています.ただし,原著論文の精査と登山・クライミングへの応用は著者(https://yamap.com/users/3511165,https://www.facebook.com/hisashi.ikari/)によるものです.

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突然,初見の専門用語が出てきたと感じた際は,別途,用語集(付録C:用語集(Glossary) )をご参照ください.

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丹沢で起きた,ある「差」

金田と鉄雄は30代の登山仲間です.体格も近く,平日はデスクワーク,週末に山へ向かう生活も同じ.大倉尾根の登りではいつもほぼ同じペースで歩きます.

ある秋,2人は丹沢主稜の縦走に挑みました.大倉を出発し,塔ノ岳を越え,丹沢山から蛭ヶ岳,そして西丹沢へ抜ける約8時間の行程です.

序盤は快調でした.いつも通り,ほぼ同じペース,同じ心拍数.しかし5時間を過ぎたあたりから,鉄雄の足取りが明らかに重くなりました.心拍数は上がり続けているのに,ペースは落ちている.蛭ヶ岳からの最後の下りでは,膝が笑い,何度も立ち止まるようになりました.

一方金田は,むしろ後半にペースが上がっていました.西丹沢のバス停に着いたとき,鉄雄は30分遅れてやってきました.

同じ体力のはずなのに,なぜ後半で差がつくのか?

🤔 2人のVO₂max(最大酸素摂取量)はほぼ同じです.乳酸閾値も,歩行効率も,体重も,年齢も変わらない.従来のスポーツ科学の指標では,2人は「同じスタミナ」の持ち主です.それなのに,8時間後の結果はまったく違いました.

この「差」を説明する概念——それがDurabilityです.


漠然と追い続けてきた「何か」に,名前がついた

実は私自身も,この「差」を追いかけていました.

第1巻の19章で山行の科学を探求する中で,ある変化に気づいていたのです.心拍ドリフト(後半に心拍数が上がる現象)が消え,速度ドリフト(後半にペースが落ちる現象)が消え,かつて6時間で崩壊していた体が,12時間までネガティブスプリット(後半の方が速い)で歩けるようになっていました.

でも,なぜそうなったのかがわからなかった.

80/20法則に従ってラッキング中心のトレーニングに切り替えたから?筋トレを始めたから?栄養と睡眠を整えたから?——おそらく全部が効いている.でも「なぜ効くのか」の理論的な柱がなかった.

そんな中で出会ったのが,Durabilityという概念でした.

漠然と追い続けてきた「何か」に,ようやく名前がついた.