Resilience Part 2で左殿筋のLSI 70%を特定し,片足トレーニングによる補正を計画しました.しかし,先行研究を精査するうちに,筋力の「大きさ」を左右で揃えるだけでは膝を守れない可能性が浮上しました.
本稿では,「筋力を出す速さ(RFD)」という視点から問題を捉え直し,自作ツールでベースラインを測定し,自宅でのトレーニング介入を設計します.
<aside> 💡
⚠️ エビデンスレベルについて 本稿の因果チェーン(RFDの不足 → 着地時の膝外反 → 膝痛)は,各ステップに個別のエビデンスが存在しますが,それらを接続した仮説はN=1の実測データに基づく推論です.ドロップジャンプによるRFD介入が登山中の膝痛を予防するかどうかは未検証です.
</aside>
Part 2では,殿筋の筋力左右差(LSI 70%)がdynamic knee valgusの原因であると推定し,片足トレーニングでLSI 90%以上への引き上げを目標にしました.
しかし,先行研究を調べると,殿筋の筋力が上がっても膝関節の動き方は変わらなかったという報告が複数見つかりました.
| # | 著者 | 年 | デザイン | n | 介入 | 結果 | DOI |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| [1] | Bennell KL et al. | 2010 | RCT | 89 | 12週間の殿筋・大腿四頭筋強化 | 痛みVASは有意に改善.歩行時のEKAM(膝内反モーメント)は変化なし | 10.1016/j.joca.2010.01.006 |
| [2] | Lack S et al. | 2015 | SR/MA | 14 RCTs | 殿筋・大腿四頭筋の近位筋リハビリ | 痛みと機能は改善.膝関節のkinematicsには一貫した改善なし | 10.1136/bjsports-2015-094723 |
<aside> 💡
🤔 EKAMとは External Knee Adduction Moment(膝内反モーメント).歩行時に膝の内側コンパートメントにかかる負荷の指標で,変形性膝関節症の進行と強い相関がある.Bennellらの結果は,筋力が上がってもこの力学パターン自体は変わらないことを示している.
</aside>
つまり,Part 2で計画した片足トレーニングでLSIを90%に引き上げたとしても,それだけでは膝にかかる力のパターンは改善しない可能性がある.では何が足りないのか.
Schwameder et al. (2000) の計測によれば,下り坂歩行時の膝関節力は勾配とともに急増し,下り24°で最大7.2 BW(体重78kgなら約560 kg)に達します [6].
この衝撃は接地からわずか0.1秒以内に加わります.Maffiuletti et al. (2016) のレビューによれば,関節障害の多くは着地後17〜50ミリ秒で発生します [3].
殿筋がいくら強くても,脳からの指令が遅れて力の発揮に0.3秒かかっていたら間に合いません.
| # | 著者 | 年 | デザイン | 主要知見 | DOI |
|---|---|---|---|---|---|
| [3] | Maffiuletti NA, Aagaard P, Blazevich AJ, et al. | 2016 | ナラティブレビュー | RFDの生理学と方法論を包括的に解説 | 10.1007/s00421-016-3346-6 |
| [4] | Aagaard P, Simonsen EB, Andersen JL, et al. | 2002 | RCT(n=15) | 14週間のレジスタンストレーニングでRFD向上.主因は神経適応 | 10.1152/japplphysiol.00174.2002 |
Maffiuletti (2016) の要点: